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『融』つれづれ

 12月には今の私の原点である大学能楽部の自演会が催されます。その自演会にて、後輩(といっても卒業生ですが)がシテをつとめる舞囃子『融』の大鼓を打たせてもらえることになりました。

 いわゆる賛助出演です。地謡をつとめるのは現役の学生たち。普通の素人会のように、周囲をプロの先生方に固めていただくのは安心できるのですが、気心の知れた後輩たちと一緒に舞台に立てるというのは他ではできない自演会ならでは。今から楽しみで仕方ありません。

 逆にいえば素人が大鼓と地謡をつとめるわけですから、途中で舞囃子が空中分解しないとも限らないわけで。せっかくの後輩の舞囃子を台無しにしないよう、それだけの責任とプレッシャーを感じます。特に私、あがり性でして、本番に今までなかったような失敗をしたこともありますのでたらーっ

 というわけで前回のお稽古では、師匠に『融』をお願いしました。ちょうど地を謡う現役たちもいたので急遽、合同稽古に。もっとも現役たち、「当然、謡えるよな?」という師匠のお言葉に、目がさ迷ってましたが(笑)

 しかし私、正直『融』って分からないんですよね。よく世阿弥の名曲だ、と言われますが、私はあまり良いと思ったことがないのです。いろいろその原因を考えてみたことがあるのですが、まず文句があまりに美文なので、意味がよく分からないこと(笑) 第二に主人公である源融の性格がよく分からない、というか、イメージがつかめないこと。

 せめてイメージのきっかけになるかな、と元古代史専攻らしく歴史的に源融のことを調べてみました。生年822-没年895。平安時代中期の大貴族。父は嵯峨天皇で、臣籍降下して左大臣まで至ります。『源氏物語』の光源氏のモデルとも言われる貴族のサラブレッドですね。河原院という邸に住んでいたので、通称は「河原左大臣」。『百人一首』にその和歌が採られています。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」

 能『融』でも語られる陸奥国塩竃の風景を自分の河原院に移した話は有名。そのために自動車もなかった時代に毎日大阪湾から塩水を運ばせた話を聞くと、金と時間が余って仕方ない人はわけのわからないことをするんだなぁ、と思ってしまいます(笑) 能楽師の方が時々源融に関して「アホボン」だとか「バカ殿」といったりするのも納得。

 出自は最高、権力も財力もあった源融ですが、彼の生きた時代は藤原氏の躍進の時期と重なり、決して思うに任せないこともあったようです。そのためか死後に融が亡霊として現れたという説話も。

 『大鏡』によると、譲位させられた陽成天皇の後の帝位を巡って論争が起きたとき、融は自分も天皇の子であることを主張したものの、藤原基経に臣籍にあったものが帝位に登った例はないと退けられたといいます。

 しかし後に即位した宇多天皇は、源定省と名乗って臣籍にあったことがある人物なんですよね。宇多天皇には基経の後援があったのです。源融にとっては我慢ならない話だったと思います。そのためか『今昔物語集』や『江談抄』で、融の亡霊に出会ったとされるのは宇多上皇です。

 望んでも得られなった皇位。その鬱屈が塩竃の伝説となって現れているのでしょうか。塩竃は陸奥国。『百人一首』の和歌にも「みちのく(陸奥)のしのぶもぢずり」が登場する。陸奥国は今の東北地方のことですが、平安時代の貴族にとっては、ほとんど異国のような扱いでした。実態もよく分からない遠い土地のエキゾチックな風習や名物に思いを馳せる源融。

 その辺りが能『融』で、昔の栄華を再現して舞っている中に、どこか寂しさがあるように感じる原因でしょうか。最後に「この光陰に誘はれて。月の都に入り給ふよそほい。あら名残惜しの面影や」と謡われ、融は陸奥より遠い場所へ消えて行きます。男版かぐや姫? なんだかSFの匂いすらします。

 …といろいろ考える材料はあるのですが、考えれば考えるほど感じるのが「やっぱ融って、私と住んでた世界が違い過ぎるよな」ということ(笑) まあ、変に頭でっかちになっても仕方ありません。ともかくも練習することが大切です。

 前回のお稽古では師匠より「そんな大鼓じゃ、シテが舞いにくいぞ」とのお言葉を賜ってます。せめて「シテの邪魔をしない大鼓」を、できれば「気持ち良く舞ってもらえる大鼓」をめざして、今はともかく練習しなければ。

funabenkei | 大鼓の稽古 | 09:59 | - | - | - | - |

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