2006.06.07 Wednesday
橋岡久馬の能
![]() | アポロンにしてディオニソス 橋岡久馬の能 文:多田富雄 写真:森田拾史郎 アートダイジェスト 2000-10 by G-Tools |
シテ方観世流の橋岡久馬師(1923-2004)の写真集。この方の能を見たのはテレビで一度だけ。『鉄輪』でした。幕から出てきた姿は上半身が安定していない。独特過ぎる拍子あたりの謡。そんなのありか!?と一瞬目を疑うような型。…今まで見てきた能とのあまりの違いにびっくりしました。
でも、同時に一気に引きこまれたのです。「異形の能」…そんな言葉が頭に浮かびました。決して他人が真似してはダメだと思う。けれど、その芸自体は凄まじい力を持っている。東京にはこんな能楽師もいるんだ。生で見てみたいなと思っている内に亡くなられてしまいました。非常に残念に思ってます。
この本に納められた写真を見ても、『鉄輪』で受けたのと同じ、いやそれ以上の「異形」さと衝撃を受けます。多田富雄さんの文章は「橋岡久馬ほど毀誉褒貶の激しい能楽師も少ないだろう」と始まりますが、分かる気がします。『鉄輪』に魅せられた私は、大学にビデオを持って行って見せましたが、「メチャクチャじゃないですか」と笑った後輩もいましたものね。そしてそれも否定はできませんし。
ともかく、変わった方だったのだろうと思います。久習会のサイトを見ても、「普段も内弟子に用を命ずる時などはフランス語を使われた」「常に完全な正字・正仮名遣いによる候分で手紙を書かれた」などと書かれていて…変わっているのは舞台だけじゃないんだ、と思ったものです(笑)