2005.11.08 Tuesday
能楽史事件簿
みゆみゆさんのブログで紹介されていた『能楽史事件簿』を読みました。確かに三文字目を「師」に変えたら、サスペンスドラマみたいですね(笑) 横浜能楽堂にて、1999年から2000年にかけて6回に分けて催された公開講座を本にまとめたものです。司会・聞き手がNHKの葛西聖司アナウンサー。もうこの方、ファンです(^^) 長年伝統文化の番組を担当されてきて、ご自身でも本を出されるぐらいお詳しいのに、ほとんどそういう素振りをされず、司会や聞き手に徹する姿はまさにプロフェッショナル。的を射た合いの手はしっかり入れられるし、良いなぁ。 …と、話を『能楽史事件簿』に戻しますと、各回、能楽の研究者と関わりの深い文化人を1人ずつゲストとして招いて、前半は葛西アナウンサーによる1対1のインタビュー形式でその方の専門分野の紹介。後半はお3方による鼎談の形式です。各講座がそのまま本の章分けになっているのですが 「義満、世阿弥を寵愛す」 となっています。全部感想を書くのも無理なので一部ずつになりますが、まず義満と世阿弥の章にある、馬場あき子さんの『鵺』の読み解きがステキです。能『鵺』の作者が世阿弥だからですが、『平家物語』では源頼政の功名譚であった鵺の話を、世阿弥は鵺に人間の格を与えて描いたということを、引用されている和歌から上手く説いて下さるのです。鵺は恋の悩みを歌った和歌を引いた言葉をいくつも使って、滅びて去っていく我が身・我が心を嘆きます。その和歌には在原業平もあれば和泉式部もある。その幾重にも重なりあっている言葉の魔術。…『鵺』は好きな能ですが、また見たくなりました。 秀吉の章では、秀吉が能『源氏供養』を演じていた時に、当時の観世大夫が見ずに居眠りしてしまい、後で折檻されたというの話がウケました(笑) 元禄繚乱の章では、当時の将軍である徳川綱吉という人物を通してみる元禄という時代と能です。綱吉は基本的には学究的で理想主義者なんですね。儒教の"徳"を意識した名君を目指して、人に良かれと思っていろんなことをするんですが、それが一方的で迷惑なこともたくさんあった。能役者の士分取り立てにしても、良かれと思ってやるのですが、役者側に取っては複雑だったりするんです(苦笑) 綱吉のために喜多流は廃絶直前になったり…。 お稽古ブームの章では、江戸時代、最大のベストセラーであった謡本の享受を描きます。よく能・狂言は武家の式楽、歌舞伎は庶民の娯楽といったようなことがいわれますが、そんな単純なものではなく、能は謡という形で庶民の生活に根付いていました。例えば寺子屋で、などなど。歌舞伎にも能の謡を踏まえた表現が多いのもその影響、庶民が謡を知っていたからこそなのですね。また五流に属しない役者たちが「辻能」と呼ばれる興行を行い、人気を博していたというのも面白いですね。 写楽の章。江戸中期の浮世絵師・東洲斎写楽の経歴については確実な資料がありません。その一方で、昔からその正体は能役者・斎藤十郎兵衛ではないかと言われて続けています。表章教授が文献からの話。そして、映画『写楽』を撮られた篠田正浩監督による魅力的な異説の紹介。写楽の絵を見ながらいろいろ想像してみたいものです(^^) 最後は明治維新と能役者です。幕府の崩壊は能役者たちによって最大の危機だったようで、明治初年には多くの能役者たちが廃業しています。その一方で、歌舞伎との融合を図った「吾妻能狂言」などの活動もあり、何百年かぶりの活発な時期でもあったようです。結局、欧米視察から帰国した岩倉具視が自国の文化の必要性を痛感。昔ながらの能・狂言が復興されていく中に吾妻能狂言は滅んでいくのですが…最近、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんが吾妻能狂言の『船辨慶』を復元・上演されました。 能と日本史と、興味のある人にはたまらない本だと思います。 |
